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ずっと、ずーっと

連続小説・こいこいさんの恋 最終回  




















勇人を拉致監禁し、脅迫した犯人たちの黒幕が逮捕されたことで、
佐岡家にとっては久々の平穏空気が流れていたが、
その一方で綾乃の結婚と東京移住、敏美の夫の転勤にともなう東京移住があり、
由紀夫は一時的には落ち込んでいたものの、会社としても新事業に取り掛かる場面でもあり、
心機一転、心を持ち直し、前向きな心持ちに変わって、
まさに晴天のような雰囲気が家庭内に訪れていた。

さらに、夏希も紹介された学者との交際も順調であるらしいことから、由紀夫にとってさらに淋しい場面があるのだが、
そのことはまだ由紀夫の知りうることではなかった。

佐岡家のなかである意味で一番安定していたのは次女の由美だった。

夫は市役所に勤務する公務員で、自分は専業主婦で、佐岡商会とも関係はないので、
今回の騒動では部外者のようなものだったが、やはり家族のことなので、頻繁に実家に戻り、
由紀夫や姉妹たちの心配をしていた。

そんな由美がある提案をした。

「いとちゃんもこいちゃんもいなくなるんやから、姉妹そろってどこかに出かけるのはどお」と姉の敏美に相談したのだった。

「そうやね、昔は四姉妹でお花見をしたり蛍狩りに行ったりしましたもんねえ」

「そうでっしゃろ、いとちゃんたちが東京へ行ったら、四人で揃うことも少のうなると思うし、ええやない」

「どこへ行く?」

「泊りがけで行きたいけどな」

「そうれはちょっと無理かも知れんわ。うちのほうも引越しとか新居探しで忙しいから」

「前から行きたかったんやけど、淀川の遊覧船に乗ってみたいんやけど」

「それええねぇ。うちら大阪にいながら淀川の遊覧なんかしたこともないもんな」

「こいちゃんとこいこいちゃんに連絡しとくわ」


由美は張り切っていた。
その心の裏側には、淋しさももちろんあった。
いつでも実家に帰れば四姉妹の顔が揃うという安心感が、ひとりだけ佐岡家を離れて蚊帳の外におかれているような
感覚を長年味わってきたし、それが何とも淋しいことになっていたからだった。

これから梅雨に入ろうかという6月の初旬の平日。

どんよりとした厚い雲が朝のうちは大阪の空を覆っていたが、正午になると嘘のように晴れ間が広がっていた。

敏美、由美、夏希、綾乃の佐岡家の四姉妹は、堂島の遊覧船乗り場に向かって堤防を歩いていた。

それぞれに年齢にふさわしく、そして決して華美ではないが、
大阪でも名家の娘だという華やかさを持ち合わせたような服装だった。

まだ、夏の強烈な暑さはないが、風がなければじっとりと汗をかくような湿度のある空気だったが、
四姉妹の歩く周辺には爽やかな空気が流れていて、しかも四人が揃って横並びに歩くものだから、
行きかう人も思わず振り返ってしまうようなオーラを放っていたのである。


遊覧船がゆっくりを川岸を離れた。

「土の上から見る風景と川の上から見る風景とは違うもんやね」

敏美は対岸に見える中ノ島のビルを見ながら風でそよぐ髪の毛を手で押さえていた。

「そうやねえ、こんな景色が大阪にもあったんやね」

「水のうえって涼しいもんやね」

「淀川ってもっと汚いと思ってたんやけど、けっこうきれいやわ」


四人の姉妹はそれぞれ感想を述べあっていた。


綾乃は、遠くに見える公会堂の屋根を見ながら、いつか東京でも四姉妹で船にのってゆっくり出来ることが
あるのかしらと想像していた。






終わり。










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連続小説・こいこいさんの恋 #33  



















敏美や綾乃が東京に行ってしまうという由紀夫にとってとても衝撃的な出来事から一週間が過ぎて、新しいビルの設計図を待っているある日の午後、綾乃から電話があった。

「勇人の事件の首謀者が逮捕されたわ。同じ業界でライバルだった会社の経営者だったんやって。
担当の刑事さんが詳しく話してくれたわ」

「勇人くんからは電話はあったんか」

「もちろん、刑事さんの前に電話があって、これで何の不安もなく東京に行けると言うてはった」

「結婚式はどないすんねん」

「こういう情況だから、籍は入れるんやけど、式は東京へ行って落ち着いてからということになると思うねん。
まだ勇人さんとはそこまで詳しいことは話し合っておらんねんけど、あくまでも私の考えではね」

「そうかー。父親としてはちょっと淋しいわ」

「ごめんなさい。今回のことはお父さんにも大変な迷惑かけてんのに、何も親孝行しないで。
それにお姉ちゃんも東京行ってまうし、お父さんのこと考えると、
このまま結婚して東京へ行ってええのかなと考えるところもあるんよ」

その言葉を聞いて、由紀夫は胸に迫ってくるものを抑えきることが出来なかった。

「・・・・・」

「お父さん、どないしたん」

「ごめん、お前のことはお前が決めたことやからええんや。親のことなんか考えんでもええよ。
お前が幸せならそれが親の幸せなんやから」

「ありがとう、また詳しいことは帰ったら話すわ」

綾乃からの電話を切ってすぐに後藤が社長室に入ってきた。

「設計事務所から電話があって、来週には設計図と模型を持ってくるということでしたわ」

「良かった、いよいよやな」

由紀夫は娘が去ることで親の悲哀を存分に味わったが、
佐岡商会にとって今後の事業の核となる新しい商業ビルの建設が順調に始まるということに
やっと前向きになれたような気がしていた。


その日、夏希は綾乃の事件に巻き込まれて以降会っていなかった大阪市立大学の助手の浅見幸弘と
梅田のホテルのレストランで食事をしていた。

夏希は、浅見の真面目でひたむきな人柄に少しづつ惹かれている自分に気がつき始めていた。

そのひたむきさは夏希への好意になって現れていたのである。

夏希と会っているときに犯人からの接触があり、その直後警察官が現れてせっかくのデートが滅茶苦茶になったのに、
夏希のことだけを心配し、その後何度も電話をかけてくれたこと、その優しい心使いに浅見の人柄を感じていたのだ。

外観も身長は180センチちかくある身の丈と、顔もイケメンとまではいかなくても、不細工というわけもないのでまあまあ気に入っている。

今日も、話題はもっぱら仕事の話しかしないのであるが、一生懸命に話す浅見の表情を見ているだけで
心が和んでくるのを感じていた。

「今まで恋なんてしたことないけど、これが恋なんやろうか」と心のなかでつぶやいていたりもした。

「夏希さんはどんな男性が好みですか」

いきなり浅見がぐさっと刺さることを聞いてきた。

返答に困っていると、

「ごめんなさい。でもどうしても知りたかったもんやから」

夏希は思い切った。

「浅見さんのような人かしら」

浅見は驚いたような顔をしたが、すぐに笑った。

「夏希さんも冗談言いはるんや」

「そんなことないですよ。本当にやけど、信じませんか」

「そうやったらうれしいけど」

夏希は微笑みながら、デザートのフルーツを口に運んだ。




最終回に続く。







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連続小説・こいこいさんの恋 #32  






















由紀夫はその夜はなかなか眠れなかった。

敏美の東京行きだけで一晩や二晩不眠になる要素に充分だったのに増して、
綾乃まで由紀夫の元を離れることになるなんて、想定外なんてものじゃない、
あまりにもショッキングな事実を突きつけられて、眠れるはずもなかったのだった。

普段からやや優柔不断な性質なうえに、「打たれ弱い」という幼少時からの性癖があるので、
このままでは仕事どころではなくなるという不安な朝を迎えていた。

こんなとき頼りにしているのが、常務の後藤だった。

先代以来、佐岡商会の番頭役として、社長の由紀夫の相談役としても、いやそれ以上、
兄貴のように頼りにしてきた後藤は由紀夫にとって、
自分の心のピンチのときに何を置いても話したい相手だったのである。

だが、今回のことは仕事のことではない。

自分の家族のことだ。

今までにも、家族のことについて相談したり、力を借りたりしたこともあったが、それはある意味前向きな話しであった。

例えば、夏希の結婚のことなどであるが、そういうことは気軽に相談できたとしても、
今回の敏美と綾乃のことは、自分の心の弱さを露呈してしまいそうで、
今までのようにすぐに後藤に電話をしてというわけにもいかなかった。

気が思い出社だった。

社長室に入って、総務部の女性社員がお茶を運んできたタイミングで後藤も社長室に入ってきた。

「おはようございます。今日は、新しいビルの設計概要の説明で、設計会社の人が10時に来社されますよって、
そのことは承知されてますよね」

由紀夫はその言葉が耳に入って来なかった。

「社長、どうされました?」

由紀夫はしばらくデスクの上のパソコンの何も写っていない画面を見つめていた。

その様子を見て、後藤は由紀夫の異変に気がついた。

「大丈夫ですか、何かありましたんか」

由紀夫ははっとした。後藤の顔が目の前にあった。

「ええ、何やった」

「今言ったんやないですか。設計会社が来はりますよって」

「ああ、その件な。分かってるわ。そやけどな・・・」

「そやけど、どないしました」

「んー、どうしようか」

「何をそうしますねん」

「ビルかー」

「あかんわ、社長。何があったか話してくれはりますか」

後藤は長年の勘で、由紀夫にかなりのショックがあったことを感じていた。

「こんなこと言うと笑われるけどな、実は敏美の旦那が東京本社に移動になったんや」

「いとはんも一緒に行かれるんでっか」

「そうやがな。それに加えて、綾乃が例の男と結婚して東京に行ってしまうんや」

ああ、言ってしまった。

出来れば、こんな内々の話で自分が弱くなっていることを後藤には知られたくなかったのに、とうとう言ってしまった。

でも、話したせいで少し気分が楽になった。

「仕方ないやないですか。とうはんたちかて自分の家庭が一番大事ですから。
ましてこいこいはんは結婚という人生の大事な分岐点やないですか。旦さんであるあんたさんがしっかりせな」

「うん、分かってるんやけどな」

「まあ確かにいとはんを頼りしていたんやからショックですやろうけど、
やはり婿養子になりはったわけではなかったんやから仕方ないやありませんか」

「あんときやはり婿養子を取るべきやったんやろうか」

「それは言ったらあきまへんよ。旦さんがいとはんのことを思って英男さんとの結婚を承諾しはったやから、
それはそれでええやおまへんか。夏希さんだって結婚しはったら家を出ていかはることは分かっているんやから、
覚悟を決めなあかんやないですか」

「確かにあんたの言うとおりや。すまん、余計な心配させて」

「ええですよ。ともかくうちらは佐岡商会の安泰しか頭にはおまへんから」

由紀夫は自分にとって後藤がいかに大きな存在であるかを思い知らされたような気がしていた。




#33に続く。





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連続小説・こいこいさんの恋 #31  

















綾乃は勇人からの急な訪問を受けた。

重要な話があるということで、いまだ警戒中で外出できない綾乃のところに来るということだった。

平日の昼間ということもあり、家にはお手伝いのみゆきと夏希だけがいて、
敏美は由紀夫のことを気にして、その日も佐岡商会に出社していた。

「こいこいはん、鈴木さんがみえはったですよ」

みゆきが下から声を張り上げた。

綾乃は鏡でもういとど自分の顔をチェックした。

薄いメイクしかしていなかった。

目の下が少し膨らんでいたが、疲れているようには見えないだろうと確認したかった。

「勇人さん、急な話ってなんなん」

綾乃は無理に元気ぶっていた。

昨日の夜、敏美一家が東京に行ってしまうことを聞いて、本当はあまり良く眠れていなかったのだ。

そのことはまだ勇人には話していない。大変なときに余計な心配をさせたくないという気持ちがあった。

「あー、実はな、うちの会社を畳もうと思ってんのや」

「どうしてなの、もうすぐ犯人も捕まるということで刑事さんたちも頑張ってくれはってんのに」

「そうなんやけど、前田とも話し合ったんや。犯人が捕まれば真相が世間に分かって、
うちの会社の信用は取り戻せるかも知れん。けど、自分としてはこういったことがあった
大阪からどこか心機一転する場所を探したいと思ってな」

「具体的に決まってるんか」

「会社を畳むというより、今の会社をいったん閉じるかたちになるか、屋号を変えて前田がひとり社長になって
新生するかはまだ決めてはいないんやけど。自分としては、東京に行ってみたいと思うとるねん」

「当てはあるの?」

「実は、俺の先輩の会社から誘われてな。経営には参加しないで、ひとりの技術者として再スタートしたいと思うとるんねん」

「それはいいけど、うちはどうすれば・・・」


綾乃の顔には不安の色が濃かったので、勇人はわざと軽いのりで、

「そこでやな、思い切って言うけど、結婚せえへんか」

綾乃は、突然のプロポーズにうれしい気持ちと、あまりにもあっさりした言い方、そして何よりも、
勇人の東京行きに対する戸惑いが交じり合って、しばらく言葉を発することが出来なかった。

「綾乃ちゃんと新生活を始めたいんや、どうやろ」

視線を下に向けていた綾乃は、顔を上げると思い切ったように言葉を唇から零し出した。

「ええよ、うれしい。ありがとう」

勇人の目には光るものがあった。



その日の夜、由紀夫が帰宅するまで勇人は佐岡家にいた。

由紀夫は帰宅すると、勇人がいることに驚いた。

「あんた、会社のほうはええのんか」

勇人は、昼間に綾乃に話したことを由紀夫に話した。

そして、綾乃と結婚することも。

由紀夫は前日の敏美の話しと、その日の勇人と綾乃の結婚の話しとでダブルパンチを食らった。

怒る気にもならなかった。

完全な虚脱状態になった。


「みゆきちゃん、夕飯はいらんわ。もう風呂に入って寝る」

「旦さん、大丈夫ですか」

「もう立ち直れないかもしれん」

「お父はん、冗談言わんといて」

ソファに座っていた綾乃の言葉に由紀夫は薄笑いを浮かべた。

「冗談ちがうで、ホンマやは」

「もうお父はんたらー」

「もうええって。どうせ俺なんか時期にくたばるよって」

「お父さんそんなこと言わんといてください」

勇人があわてて由紀夫の腕を支えた。

「大丈夫やて、突然だったから動揺しているだけや」


由紀夫の顔に生気はなかったが、声にははりがあった。

「すいません」

「どちらにしても事件が解決してからやろ」

「そうなると思います。今日は何ですから改めてご挨拶に伺います」

「そうしてくれはりますか」

そう言うと由紀夫は二階へ上がっていった。

「お父さんに申し訳ないな」

「気にせんでもええよ。ああ言ってもあの人けっこう図太いところあるから」

綾乃は本心では父親のことが心配だった。

敏美のことに続いて自分も父親から去ることになって、どんなに気弱になっているかを想像したからだった。



#32に続く







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連続小説・こいこいさんの恋 #30  



















敏美の長女夢愛は、敏美から父親の東京転勤を告げられ、転校か大阪に残って、
家族と離れ離れになるのかという選択を迫られていた。

翌日の朝、夢愛は登校する身支度を整え、朝食のテーブルに着いた。

「お母さん、東京に行ってもええよ」

「ほんまにええんか」

「そうしたい。だって離れて暮らすのはいややもん」

「おじい様だっておるし、みゆきちゃんもおるし」

「でも、やっぱり家族は一緒のほうがええんと違う」

「うちやお父さんはうれしいけど、あんたが後悔するようなことなら、もっと考えてもええけどな」

「転校するんは不安やけど、東京の生活にも憧れるしな。それでどこに住むの?」

「まだ分からんわ。おじいちゃんが持っているマンションがあってな、そこに住もうかとも考えてるんやけど」


夢愛が意外にあっさりと転校を承諾したので、敏美は少しうれしかった。

英男の仕事のことも不安であったが、家族で一緒にいられることがどれほど心休まることか、
もし、夢愛が残るとしたら、大阪と東京を行ったり来たりして、経済的にも心理的にも大変なことは分かっていたからだった。

由紀夫が起きてきた。

「お父はんおはよう」

「おはよう」

由紀夫は少しやつれたような顔をしてテーブルに着いた。

みゆきが運んできた皿の料理を食べながら、朝刊を読んでいる。

「話しがあるんやけど」

「どうした、あらたまって」

敏美は英男の転勤の話しをした。由紀夫はまさかという表情をしながら、食べようとした目玉焼きを皿に戻した。

「急な話やな。夢愛はまだ中学に入ったばかりやないか。夢愛には話たんか」

「昨日、話して、今朝家族で東京に行こうということになりましたんや」

「そうか・・・」

由紀夫は一気に淋しさが心のなかに溢れてくるのを感じていた。

綾乃には事件に巻き込まれた恋人がいることが分かり、夏希も交際が順調そうで結婚するかも知れない。

さらに敏美たちまでいなくなると、この家には自分ひとりしかいなくなる。

お手伝いのみゆきは通いだから、夜はひとりぼっちになってしまうのだ。

しかも、英男は、てっきり自分の跡を継いでくれるものと思い込んでいたのだ。

「ごめんな、お父さん。期待に答えられなくて」

敏美は由紀夫が英男を当てにしていることは分かっていた。

だから英男の転勤のことは言いにくかったのだが、どうせ言うなら早いほうが良いと思い、その朝言うことに決めたのだった。

「それはええわ。そやけど、夢愛がかわいそうやな」

「あの子には負担が大きいけど、耐えてくれると思ってるんよ」

「そうやな、あの子はお前に似て、気が強い子やから」

「何というても家族一緒にいられることが何よりやろ」

「そうやな」

由紀夫はそう言うと席を離れて二階に行ってしまった。

その父親の淋しそうな後ろ姿を見て、敏美は涙が零れ落ちそうになったのだった。






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#31に続く。







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