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ずっと、ずーっと

超ショート  干され  




















綾乃は俳優の事務所に所属して3年目の女優だ。

顔立ちは、夏目雅子に似て、細面の美人。

演技も養成所で2年間みっちり鍛えて、舞台でも映像でもどんな役でもこなせる自信はあった。

それなのに、まともな仕事はまったく無かった。

「私って、完全に干されているよね」

いつも感じていた。

担当のマネージャーは、オーディションを月に1回か2回紹介するだけで、
まったく自分のために動いているとは思えなかった。

事務所に入って2週間くらいで、コマーシャルの仕事を入れてきた。

ほとんどエキストラと変わらないほどの露出だったが、まだ所属したばかりなので
その後どんどん仕事を入れてくれるんじゃないかと期待はしていた。

事務所に入って1年間は、1週間に1回は事務所に顔を出した。

マネージャーを捕まえて、

「お願いします」とだけ伝えた。

「また連絡する」とあっけなく答えられるだけだった。

他の事務所に所属している友人は、

「他の事務所に移籍したら」と言われたが、何も実績のない新人女優を
受け入れて売り出してくれる事務所はありえないと思った。

何で、自分はオーディションまで受けられないのかマネージャーに質問したことがある。

「みんなオーディションくらいと簡単に言うけど、オーディションの情報を持ち込まれることも大変なんだよ。
制作デスクや監督、プロデューサーたちの動向や、テレビ局の編成担当にまで食い込まなくてはならないからね。
そうした努力の結果、オーディションの話が来ても、君の先輩を優先させなければならないしね。
まあ、焦らず待っていてくれよ」

事情は分かる。

でも、それがあんたの仕事だろと言ってやりたかった。

ほとんど仕事をしていないのに、女優とは言えない。

将来のことも考えて、どうしようか悩んでいた。








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桜満開のころの再会  




















家の前の桜が満開を迎えた。




かすかに声がした。


バシュカ、いやマイケルかな。


今年も会いに来てくれたんだね。




ちゃんと食べていたんだよね。


姿を見せておくれよ。




ロシアンブルーのバシュカは相変わらず気儘にやっているのか。

アメショーのマイケルは人間が大好きだから誰かと遊んでいるのかな。





お前たちがいなくなってから家にきた3匹も元気だよ。

もう俺も老いぼれだけどなんとか暮らしているからさ、また来年も来ておくれよ。

待ってるからさ。




マイケルの大好きなご飯も用意しているよ。

お前たちのお腹を触るのが好きだったんだ。

柔らかい被毛のしたにほのかに暖かいぬくもりを感じるのが好きだったね。

大きな瞳をもう一度覗き込みたい。







また声が聞こえた。






もう行ってしまうのか。







来年も桜が満開のころにお前たちが来るのをここで待ってるよ。










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お前もかよ!  























あいつだけはギャンブルには無縁だと思っていた。


同じ首都圏の高校を出て、薬学部に入って友人になった。


薬学部は、普段から授業時間が多いし、長い。


学校にいる時間が長いので、友人がいないときつい。


入学ガイダンスのときから、彼はきさくに話しかけてくれる貴重な存在だった。


薬学部というのは、真面目な学生が多い。


一生懸命勉強しなければ、すぐに落第するのでお互いに助け合わないとやっていけない。


授業料は高いし、6年制だから親にかける負担が大きい。


だから、落第すると親の負担が大変なことになる。


気が抜けない学生生活だから、友人とすごす時は息抜きになるし、心の支えでもある。


だが、今わたしの学年には変なブームみたいなものがあり、それが「競馬」なのだ。


東京競馬場が近いせいもあるかも知れないが、男子学生で競馬をしている連中が非常に多い。


休み時間には、次のレースのことや、予想が的中して儲かったというような話が飛び交う。


女子学生は、男子学生とはほとんど交流がないので、まったく無視している。


しかに、私の友人は、根っからの地味男だし、経済感覚がきっちりしていると思っていたが、
最近どうやら他の友人と日曜日には競馬場に行っているらしいのだ。


「お前もかよ」


「最初に買った馬券が当たったからね。はまったよ」


友人を失うのが恐かったから、けっして非難はしなかった。


だが、よりによって彼がはまるとは。


彼のことだから、損をし始めたらきっと離れるだろうと。


私はけっして競馬にははまらないだろうとは思う。








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お前がやったことだろ  




















「お前がやったことだろ」


「それはそうだけど、そうするしかなくてさ」


「自分の責任は自分で何とかしろよ」


あいつはそう言い切った。


新人のころさんざん助けてやったこと忘れたのか。


同期として助け合うなんてこいつの頭にはないようだ。


それとも自分は甘いのだろうか。





サポートセンターで働くこと10年近くなる。


女性の多い職場で、男の管理職はあいつと俺だけだ。


自分のセクションに、あくが強い女がいた。


たいしたスキルもないくせにプライドだけ高くて、ちょっと注意すると、


「私は大手のカード会社で十年もやってきたんです」


頑として譲らない。


だからこちらも頑なになる。


「わたしの言うことが理解できないようじゃあ、一緒にやっていけないよね」


その女は1ヶ月後に辞表をだした。


しかしその後が大変だった。


補充する人が入ってこなかった。人手不足なのだ。


ローテーションがうまく回らなくなった。そのために、電話がつながりにくいというクレームが本社に届くようになっていた。


自分の判断でここまでの痛手を受けたのは初めてだった。


なんとか過去に辞めた人と連絡を取って、次の人が見つかるまで短期で働いてくれないかと頼みまくった。


「いいですよ」


十数人に電話したところでやっと良い返事がもらえた。




自分が蒔いた種とはいえ、しんどかった。





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お世話になります  

















「お世話になってます」


「こちらこそ娘をよろしくお願いします」


娘の李緒が勤める研究所の所長に会ったのは初めてだった。



大学で研究している分野が同じなので学会では見たことはあるが、自分は関東、所長は以前は関西の大学で教えていたので、交流は無かった。


娘が同じ道を歩いてくれたときは内心うれしかったが、複雑な気持ちもあった。


同じ研究分野ということは、おたがいに同じ秘密を持つことにも繋がる。


仕事の話はほとんどしない、したとしても人のことで話題になるくらいで、今の研究について話すことはない。


「お父さん最近家に帰ってくるのが遅いわね」


娘にそう言われると、


「今なにを研究してるの」


と聞かれているようで、身構えてしまう。


親子でおたがいに仕事上の秘密を持つことは、例えば警察官とか、公務員などにはあることかも知れない。


娘と同じ分野といっても、まったく同じテーマを研究しているわけではないので、
そんなに神経質になるのはおかしいのかも知れない。


「娘はお役に立っていますか」


「ええ、まじめな方なので助かっていますよ」


「そうですか、家では女かと思うくらい大雑把なんですけどね」


「きめ細かい神経で同じチームでも信頼されていますよ」


そこまで娘を褒められると、気恥ずかしい、と岡島は感じていた。



「皆様にご迷惑をかけていないのかと心配しております」



「私にも子供がいますから分かります」



所長も同じ思いでいるのかと少しホッとした瞬間だった。












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