ずっと、ずーっと

入っていいよ

















彼女の住むマンションのエレベーターに乗りながら、

「帰ってよ。もう終わりなんだから」

そんなこと言われそうな気がしていた。

数日もラインが来ていない日が続いたので、待ちきれずに自分からラインを送った。


昨日、会社が終わったあと、やっと会えた。


久しぶりに入ったレストランで、

「このごろわたしたちのこと深く考えるんだ」

「何を」

「だってわたし来年は就職でしょ。そうなったら今よりもっと会えなくなるんじゃないかって」

「まだ分かんないじゃない」

「きっとそうなる気がする」

「そうかなあ」

「会えなければ、気持ちが離れるんじゃないかって」

「ちょっと待ってくれよ。そんな可能性だけの話をしたって仕方ないじゃない」

「可能性があるってことはありえる話だってことでしょ」

「それはそうだけどさ、まさかそれで別れるようなんてことまで考えてるんじゃないよね」

「少しは考えたよ」

「それはないよ」

ため息が出た。

「学生から社会人になるって大変化だもんね」

「そこを乗り切ってくれよ」


それ以上別れるのどうのこうのとは彼女の口からは出なかった。

取り留めのない話で昨日は終わった。

そして今日。

心配で彼女の家まで来てしまった。

ピンポン。

「はい」

「俺だよ」

「入っていいよ」

彼女の声はうれしそうだった。








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  1. 2018/02/20(火) 05:00:12|
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運転代わってくれよ!

















「次のサービスエリアで運転替わってくれ」


いつも遠出すると帰りの高速に入るとすぐに運転を替わろうとする彼。

「けっこう疲れたでしょ」

「首が痛い」

「次のパーキングエリアで運転代わる?」

「いいよ、海老名サービスエリアで替わるよ」

ちょっと無理している彼。

彼女も頻繁に運転しているわけじゃない。

たまに遠出したときに、彼に代わって運転するくらいだ。

しかも、まだ車で込み合う一般道を運転する度胸はなかった。

だけど、疲れたという彼に運転させとくわけにはいかない。

一般道路では自信ないが、高速で一番端のレーンを走って90キロくらいで走ればそんなに恐くない。

「いつもごめんな」

「べつに良いよ。事故るよりは」

「そうだよな」

運転は怖いけど、事故はもっと怖いと彼女は思った。


彼も彼女も箱根が好きだった。

東京から数時間も運転すれば、景色の良い、自然を満喫できる。

行き着けのレストランもあり、年に数回は箱根に足を運んだ。

「今度はいつ行こうか」

「年末に行きたいな」

「雪は降らないかなあ」

「12月に降る確立は低いよ」

彼の自動車は、マニュアルミッションのGTタイプだった。

だからクラッチも重いから、渋滞にはまると疲れが倍増した。

彼女も最初はマニュアルが嫌だったが、もう慣れた。

「海老名まであと12キロだ」

案内の看板が見えてきた。







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  1. 2018/02/16(金) 05:00:00|
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ちゃんと謝りなさいよ!
















「なんで遅れたの?」

「ゼミの仲間に質問されてさ。丁寧に説明してたら時間を忘れちゃって」

「だったら、ラインくらいしなさいよ」

「後輩が必死だったからさ。今度のグループワークの責任者である俺が引っ張ってきたから、どうしても熱くなっちゃって」

「それは分かるけど、うちのお母さんもあなたに会うのを楽しみに仕事を早く終わらせて待ったんだから」

公的機関で働いている母親は、娘のボーイフレンドと娘と三人で食事をすることが何よりもストレス発散になると思っているらしい。

「俺は癒し系動物かよ」

と、思ったりしたこともあった。

でも、彼女たち親子は、二卵性親子というくらい仲が良く、彼女も母親を誰よりも信頼しているのが彼には微笑ましかった。

彼も三人で食事するのは嫌いではなかった。

学生の身分じゃあとても行けないレストランで食事するのは楽しみでもある。

「遅れたことは悪かったけど・・・・」

「なによ」

「こちらの事情も分かってよ、と」

「分かんない。うちのおかあさんは分かるかもしれないけど、わたしは分からない」

「遊んでていたわけじゃないんだから」

彼女が心配するのは、ここで緩めるとまた同じ理由で遅れるかも知れない。

遅れて来るのはまだしも、やって来ないこともあるかも知れない。

もしかして彼は三人で会うことが嫌になったのではないか。

だから、理由はどうあれ許してはいけない。

「ちゃんと謝ってよ」

強い口調で言ってしまった。

「ごめんなさい。今度からどうしても遅れるとかきは必ず連絡することにするよ」

「そお、それだったら良いよ」

彼女の顔にやっと笑顔が戻った。








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  1. 2018/02/12(月) 05:00:00|
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おかげさまで








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「おかげさまで」



取引先の課長からお礼の電話があった。

岡島が都合をつけてやったシステムエンジニアがシステムを回復させたからだ。

「いいえ、いつもお世話になっていますから」

「今度、また飲みに行きましょう」

「ありがとうございます。先日の件もよろしくお願いします」

「もちろん、分かってます」



岡島にとって仕事はいつも人とのつながりがすべてだと思っている。

どんなにテクノロジーが進化しても、人の営みは人との関係が重要なのは変わりない。


「コミュニケーション能力がないと仕事が上手くいかない」

当たり前のことが最近やたらと声高に語られることが、

岡島にしたら、「何をいまさら」という感じだ。


新入社員の目に輝きがなくなったのは、最近のことではない。

表面は、はきはきしていても、裏の顔は人を拒否している。

人との関係を根本的に拒否してる。

自分は、正しい、やれる、人から干渉されたくない、そして、根拠のない自信がある。

そんな彼等と付き合うのは正直骨が折れる。


「将来どうなっていくんだろう」

漠然とした不安がよぎる。


岡島は自分の仕事のじゃまにならなければ、部下がどんな人間であっても関係ないかもしれないとも思っていた。

ただ、同じ会社にいて、同じ仕事をしている以上、人間的な付き合いもある。それがいまやりにくい時代になっているのか。


だが、それとは別に、「人との関係が弱い人間が多い以上、人との付き合いが好きな俺の仕事での出番が減ることはないだろう」

とも考えている。









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  1. 2018/02/07(水) 05:00:00|
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えさ食わす

















私は昼休み、わざとひとりでOLたちがよく行くカフェで昼飯を食べることがある。


隣の席に座る女たちの会話を盗み聞きするのが楽しみだからである。


そのため、自分の会社の女たちが来そうな店ではなく、外出した際にいつもと違う場所で入ることにしている。


女たちは、ほとんどが「男の話」か「上司の悪口」だった。


たまには「朝まで3発よ」などという艶かしい話も聞けて、ひそかな愉悦を味わえるから好きなのである。



今日も、取引先の会社がある銀座のカフェに入った。


しばらくすると、となりに座った女たちの会話が聞こえてきた。


「彼と結婚するの?」


「どうしようか考えてる」


「付き合って2年だっけ」


「2年間のうち半年間だけ会ってなかったけどね、彼が研修でドイツに行ってたから」


「あんた浮気したでしょ」


おっと、面白い話になってきた。


「馬鹿、言わないでよ。そんなことするわけないじゃない」


正直にしゃべっちゃえ、私はそう言ってやりたかった。


「まあ、いいけどねー。それより、私だった結婚しちゃうけどな、彼、なかなかかっこいいし」


「浮気が心配」


「それは言えてる。モテそうだし」


「でも、ああ見えてけっこうモテないようよ」


「今から心配してもはじまらないか」


「言えてる、言えてる」


屈託無く笑っている。



「でもさあ、結婚すると毎日旦那にえさくわさなけりゃならないじゃない。それが面倒臭いよ」


いきなり強烈な言葉が胸に刺さった。


「えさをくわさないと」だって。


私は、自分の妻が自分に、


「えさをくわしてる」


なんて思っているのだろうかと想像すると、寒気がした。


「じょうだんじゃないぜ。飼い犬じゃないんだから。こっちは家族のために、嫌いな仕事相手にも頭下げてるっていうのに」


「そうそうえさを作るのめんどいよね」


「だからさぁ、結婚っていうのも微妙だよね」


だったら結婚すんな。


その女たちに言ってやりたかった。


なにげなく、横を向いてその女たちの顔を見た。


けっこうな美人であった。










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  1. 2017/12/30(土) 10:54:05|
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