ずっと、ずーっと

張り切っていこうぜ











練習が始まる前、部員全員が輪になって話し合いが始まろうというとき。


ひとりの先輩がすくっと立ち上がった。


「張り切っていこうぜ」


みんなは唖然とした表情をした。困惑した顔のものもいた。


何、ひとりで張り切ってるんだよ。


多くの部員たちは心のなかでつぶやいていた。


部員たちが不安になったことが起こっていたのだ。


今まで顧問だった蛯原先生が新学期の異動でいなくなると分かったとき、部員は呆然とした。


蛯原は、独創的なアイディアで練習方法を開発し、それまで予選で一勝も出来なかった部を勝ちあがれるチームに育てたからだ。


二年生の真二たちが入ったときは、ちょうど強くなりかった時でもあった。


「新しい顧問はどうなるんだろ」


部員からは不安がる声が多かった。


「蛯原先生みたいな人はそうはいないってうちの親が言ってた」


そういう子もいたほどだ。


「新しい先生が、蛯原先生の練習をそのまま続けてくれるか分からないしな」


そこが重要だった。


せっかく蛯原先生が積み上げてくれたものを無しにして、また一から作るのは大変だし、もしかするとまた弱いチームになってしまうかも知れない。


先輩たちは3年生だから夏過ぎには終了するけど、真二たちはその後も大会は続く。


「決まったことだ。落ち込んでいても仕方ない。何とか蛯原先生の練習法を新しい先生に認めてもらうことが重要だよ」


「そうだよ、新しい先生は蛯原先生よりもっとすごい人かも知れないからさ」


「だよな、俺たち上級生がしっかりしないとどうしようもないよ」


春休みが終わって誰が新しい顧問になるかすぐに分かる。


もし、まともな指導で出来ない人がやってきたら困ったことになる。


真二たち二年生が新学期からは主力になって部をまとめなければならない。


やはり張り切るしかないのだ、真二はそう決意した。








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  1. 2017/09/17(日) 10:02:14|
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他人にもどろう











彼は持ってきた抹茶ラテを口にふくんでゆっくりと飲み込んだ。そして、思い切ったように言葉を出した。



「他人に戻ろう」



「古い言い草ね」



彼女は、その言葉を予感していたかのように落ち着いた表情だった。



もう彼女とやり直すことは出来ないと彼は思っていた。



だから今日言おうと思った。




「知り合う前に戻るだけだよ」




「つまりこれまでのおたがいの時間を無かったことにしようということでしょ」



「そういうことになるのかなあ」



「冷たい言い方ね」



「俺だってどう言おうか考えたんだよ」



「思慮が足りないってこういうことを言うのね」



「そういわれてはもう何も言えなくなっちゃうけど」



「はい、そうですかって、私が言うと思った?」



「いや、そうは思わなかった」



「じゃあ、なによ」



「おたがいにもう限界だったことは分かってたと思うけど」



「それはそうだけど」



「俺から一方的にって話じゃないだろ」



「それは分かるけど」



「確かに他人に戻ろうなんて古臭い言い回しだし、もともと俺たちは他人だし」



「そらりゃそうよ」



「あえて、そういうことしか頭に思いつかなかったんだよな」



「どうせ限界は限界なんだから、あなたがどう言おうと結果は同じことなのかもね」



「ごめんな」



彼は本当にすまなさそうな表情をしていた。








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  1. 2017/09/13(水) 09:08:31|
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どうして浮気するの?













「叔父さんは何で浮気するんですか」



姪の実代から唐突に聞かれて達哉は度肝を抜かれた。何で知ってるんだ、この娘は。


実代は、都心に事務所を持つ達哉のところに二ヶ月に一度くらい訪ねてきた。


大阪に住む弟の娘である実代は都内の大学に通う20歳。


赤ちゃんのときから見てきた実代は、子供がいない達哉にとっては、可愛くてならない存在だった。


「娘の相談相手になってくれ」


弟に頼まれたこともあるが、達哉としても実代に会いたくてよくメールはしていた。


「俺は浮気なんかしてないけど、浮気する男はいるよ」


「そおぉ、本当にしてない?」


「誰から聞いたんだよ」


「はっきりと聞いたわけじゃないけど、叔父さんみたいな弁護士さんってもてるんでしょ」


「どういう弁護士だよ」


「もうかってる弁護士」


「そんなにもうかってないよ」


「だって銀座のクラブに行ってるんでしょ」


「そりゃ行くけどさ、それと浮気ってどう繋がるんだよ」


「じゃあ浮気したことないの?」


「ないさ」


「んー、なんか感じわるい」


「どうしていきなり怒られるんだよ。理解不能だね」


実代の口元が緩んだ。


「やっぱり浮気してんだ」


心当たりがあるだけに、どういう表情をして良いのか分からない。


本当に困るよ、こんな質問は。実代はもう大人なんだから察しろよ。


「浮気する男は嫌いかい?」


「絶対、許せない」


達哉は可愛くてたまらない実代が、悪魔に思えてきた。









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  1. 2017/09/10(日) 09:38:35|
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お大事にしてください





IMG_0971.jpg




「お大事にしてください」


診察室を出ると必ず看護師が言う。


「いまのところ異常なところはありませんね。また痛くなったらちょっと詳しい検査をしましょう」


と、医師から言われたのに、どうして、


「お大事に」


ということになるのか。



下手をすると、人間ドックの検査結果を聞きにいっただけでも、



「お大事に」



と言われたことがある。



何でもかんでも言えば良いというもんじゃない。



だいいち、診察室を出るとき、待合室で順番を待っている人たちから、



「この人どこがわるいんだろ」



「もしかしたらがんじゃないのこの人がんじゃないの」



なんて思われるじゃないか。思いすぎだと思われるかも知れないけど、そう思う。



だから、病院が嫌いという人が減らない理由のひとつになるんじゃないかと思ってしまう。



「おれは気になるところがあるから来たけど、結局健康体だったんだ。お前たち病人とは違うんだ」



と、心のなかで言うんだけど、



「お大事にしてください」



と言われると、



「あなたは病人です」



と言われている気がする。



何も言わないでくれればよいのにと彼は思った。



いっそうのこと「何でもなくて良かったですね。あなたは健康体です」とでも言ってくれたら胸を張って診察室を出ていけるのに。






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  1. 2017/09/06(水) 09:57:39|
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入力ミス










「また入力ミスか」


課長が口を尖がらせながら睨んだ。


「簡単なミスなのに、自分で気がつかないのかねえ」


そんなことをもう3年も言われ続けている。


会社の経営が芳しくなくなったら、必ずリストラ一番候補になるのは自分だと彼は分かっていた。


「すいません。今度から気をつけます」


彼のくせは、仕事は速いけど、自分のやったことを見返すのが本当に苦手であるということだ。


学生時代からあまり変わっていない。自分が書いたレポートを読み返さないものだから、誤字脱字だらけのものを教授に提出して注意されたことは数多くあった。


古い言葉で言うなら


「猪突猛進」


一度行ったら引き返せない。


山で遭難するタイプだ。


よく言えば、あっさりしている。


根に持たない。


しつこくない。


だから、部下や同僚には受けは良い。


しかし、仕事となるとそうはいかない。


「丁寧さが欠ける」


ということになってしまう。


社内の人間関係を取るか、上司からの信頼か。


サラリーマンはどちらも欠かせない資質だ。


でも、この性格は治りそうもないと彼は考えている。


「お前の性格変えないとやばいぞ」といつも同僚から言われてしまう。


「結局なるようになるさ」


「本当にそれでいいのかねぇ」


同僚はご愁傷様という顔をする。


結局今日も苦い酒を飲むことになるのだと考えるのだった。








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  1. 2017/09/03(日) 09:52:38|
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