ずっと、ずーっと

見に行こっ














「ねえ、写真展見に行こうよ」


日曜日の朝、妻がいきなり切り出した。


「何のだよ」


「第二次世界大戦の前に生きていた人の写真」


「へえー」


妻がそもそも、展覧会を見たいなんていうこと自体珍しいのだが、よりによって戦前の写真などとは。  

 
「驚き」・・・だった。


「その写真家は、自分の奥さんをモデルにして、前衛的な写真を撮ることで有名だったみたい」


私は、写真についてはほとんど興味が無く、子供の運動会の写真だってスマホでいやいや撮るくらいなものだった。


家族にたいして愛情が希薄だとかいうんじゃない。


ただただ、機械を操作するのが面倒なだけだ。


「あなたは興味なさそうだけどね、でもたまには良いじゃない」


分かっているのにわざわざ人の心をざわつかせるのが私の妻だ。


「良いよ、行っても」


ここで波風を立たせるのは健康に良くない。


「午後から行こ」


「子供を連れていって騒がれると人に迷惑になるぜ」


「だったら、私が写真を見ているときに、あなたが外の公園で遊ばせておいてよ」


結局、それかい。


「面倒くさいなぁ」


「ごめん、ごめん」


「こんど、私が食事を奢るからさ」



どっちが妻か夫か分からないのが、現実なのかなと彼は思った。








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  1. 2017/11/15(水) 10:20:52|
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古臭い町だよね












みなみは生まれてからこの町を離れたことはない。


大学も地元の公立大学に進んだ。


何より、親に負担をかけるのを避けたかったからだ。


しかし、親は違った感想を持っていることを知ったのは大学二年生になったころだった。


リビングで寛いでいると、突然父親が、


「お前は親孝行だけど、そんなに親に気遣っていると、いつか突然家を出てかれるんじゃないかと不安になる」


顔は笑っていたが、眼差しには心配という文字が浮かんでいた。


そんなこと初めて聞いたのでみなみは戸惑った。親を安心させるためだったのに、と思った。


率直な親だから、自分も本心で答えなければならないと考えていた。



「まだそこまで考えたことはないけど」



父親の顔は見れなかった。


事実、今働いている会社も地元にあるが、そろそろ飽きてきていることは間違いない。



「みなみは、もし好きな人が東京の人だったらどうする」


同僚の杏奈が聞いてきた。


杏奈は、東京出張所に勤務する先輩と遠距離恋愛してる。


「現実にならないと分からないわ。でも言えることは、この会社で付き合おうと思うような男はいないってことかな」


じゃあ、自分の恋愛はどうするんだ、と自問したが答えは出ない。


「親を置いていけない」


なんて人には言えない。



「私はもうこんな古臭い町にいたくないっていうのが本音かな」


女の相談なんて結論はもう自分のなかでは出ていて、相談した相手に相槌だけを求めることが多い。


「私もそう思うことはあるよ」


杏奈の口元が少し緩んだ気がした。








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  1. 2017/11/12(日) 10:21:21|
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浮いているかしら













アールグレイティを飲みながら、


「私って浮いてるかなぁ」


美音はそういうと不安そうな顔をした。


「んー、正直に言うとそういうことはあるかも」


美音は経済学部の3年生で、経済学科で少ない女子のなかでも飛び切りの少し前、というくらいの美人だった。


「男子が多いしさ、女子は地味系がほとんどだからね。だから浮いてるというより、目だっているという感じかな」


美音は納得できないという顔をした。


ピンクのリップクリームが塗られた形の良い唇が少し尖った。


「悠美だって季代だって可愛いじゃない。私なんかたいしたことないのに」


美音としては珍しいくらい自信無さげな表情をしている。


「それって、本当に思ってる?」


「思ってるよ」


「本当かなぁ」


ちょっと意地悪な言葉を続けた。


「高校でもぜんぜんもてなかったし」


嘘だ、そんなことはないでしょ。そういえば、高校時代に付き合った人がいると聞いたことを思い出した。


「彼氏はいたんでしょ」


少し強い口調で突っ込んだ。


「それはそうだけど」


「もてない女が彼氏なんか作れないよ」


呆れたような表情で言ってやった。


「わたしからアプローチしただけだよ。それも2回振られているんだよ」


「どうして別れたの」


「むこうは九州の大学に行ったからね」


「医学部なんでしょ。付き合ってれば良かったのに」


「将来医者になるからって、好きでなくなった人と打算で付き合えないもん」


「私だったらキープしとくけどなぁ」


「そんなこと私にはできないよ」


目の前で自分のこと「浮いてるかも」と言った友人が「男をキープする」と言ったことが意外だった。






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  1. 2017/11/08(水) 08:51:43|
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役者だねぇ













「あんた役者だねぇ」

そういうと母親は息子の顔を驚くように見た。


彼は父親に、司法試験に挑戦していることを黙っていた。


そのためにせっかく就職した商社を辞めていたのだ。


そのことを隠して2年になる。


母親には、辞める前から相談していた。


両親と同居してるのに、会社を辞めたことを悟られないようにすることは不可能だと母親は思っていたので、いずれ父親の知るところになり、大惨事になることは覚悟していたようだった。



「上手いだろ、俺の演技。毎日スーツを着て家を出て図書館に行くのは別に大丈夫だったけど、早く家に帰れないのは不自由だったね。でもたまに父さんが付き合いで遅くなるときは母さんからメールが来て早く帰れるのはうれしかった」



「お父さんはあんまり口数が多いほうじゃなかったけど、たまにあんたの会社のこと聞かれたのには大変だったわよ」


「よく分かんないって言ったんだろ」


「そうよ、それで済む人だったから良かったわよ」


「でも、父さんは気づいてたんじゃないかな。」


「そうかもね、あんたの演技に付き合ってじゃないの」


来年にはたぶん受かる自信はある。根拠のある自信だった。


合格したら俺の演技は終わるけど、そのとき父さんがどんなリアクションをするのだろうと考えると少し震える思いだった。


「受かったら怒りはしないだろう」


「怒るのはむしろ私にじゃない」



そういう母親の表情には不安と期待があるような気がした。








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  1. 2017/11/04(土) 09:25:16|
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行くって言ったでしょ















「この前言ってたじゃないの」



迪子の母親の美由紀が怒ったように言った。

「そんなこと言ったっけ」

「言ったわよ」

小田原城に連れて行くという約束をもう2年も果たしていない。

迪子も仕事が忙しかった。

「今の仕事が落ち着くまでいけないなぁ」

「だからこの前、今は大丈夫なのかって聞いたじゃない」

もう歳のせいか、すこし痴呆が入っているのか、母にそこまで言った記憶はない。

だが、母は確信を持った強い表情で迪子を見据えていた。

「もうみーちゃんの言うことは信用できないね」

「そこまで言わなくてもいいじゃない」

迪子は、うんざりした表情をした。

このままでは、喧嘩になりそうだった。

「だから仕事が落ち着くまでって言ってるでしょ」

「そういって何年になると思ってるのよ」

確かにこれまで生返事をしてきたことは事実だった。

けっこう、頭はしっかりしてるじゃない。

これは、今度こそ生半可な答え方をすると、本当に喧嘩になってしまう。

「じゃあ、夏までにはきっとね」

母は少し安堵した目をした。

「本当に言ったわよね、本当よ」

「出来るだけ努力します」

今はこういうしかない。

やっと母の顔に笑顔がみえた。








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  1. 2017/10/31(火) 09:10:40|
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