
発見された遺体は、年齢60歳前後の男性だった。
財布などの身元が分かるものは無かった。周辺でも発見されなかったので、犯人が被害者の身元を隠すために持ち去ったと見られた。
本庁の捜査一課強行班が捜査本部の中核に配属され、指揮を執るのは井上監理官だ。
所轄の西世田谷署は刑事課の総力を上げて、地取り捜査を担当していたが、有力な目撃者もなく、周辺の防犯カメラには複数の人間が映っていたが、それだけではホンボシにすぐには結びつくものはなかった。
「ホシの奴も犯人らしく振舞って防犯カメラに映ってくれてたら楽なんですけどね」
西世田谷署の刑事、小山田の相棒の窪坂刑事が愚痴を言った。
「こっちの都合よくホシが動いてくれたら、俺らの活躍の場面がないじゃないか」
小山田は鼻をふくらませた。
「それもそうですが、小山田さんは流しだと思いますか」
「多分違うな。流しの物取りじゃないような気がする。それに殺しはどうかな。財布目当てだったら、頭を何かで殴るだけで済むじゃねえか」
「じゃあ、やはり怨恨ですよね」
「俺はその線が強いと思う」
「しかし、まだ身元が分からないなんて」
「そのうち何らかの情報が出てくるよ」
遺体解剖の結果、死因は胸部を深く刺されたことによる失血死だった。
凶器のナイフからは指紋は検出されず、被害者以外のDNAは見つからなかった。
事件発生から一週間が過ぎた。
容疑者の特定どころか、被害者の身元も判明されないという捜査本部にとっては最悪の一週間だった。
小山田たち捜査員も疲労の色が濃くなっていたころだった。
次の日、事件は大きく動くことになった。
被害者の息子と名乗る男が山形県警からの照会で西世田谷署を尋ねてきたのである。
「遺体は大学病院にあります。確認をしていただきますか」
監理官が被害者の息子に言った。
被害者は真壁振一郎。62歳。出身は山形県。元警察官だった。
定年後は警察学校の教官を勤め、一年前に退職し、悠々自適な日々を送っていた。
事件発生の5日前に山形を出発し、東京の浅草を見物に出かけたという。
山形に戻る日を過ぎても帰らないので、息子が捜索願いを出していたのだ。
警視庁から事件の被害者の情報が全国に流されていたので、それを息子に見せたところ父親らしいということになったのだ。
被害者の息子は大学病院で遺体に対面し、被害者が父親であることを最終確認した。
被害者が特定されたことで捜査が一からスタートした。
小山田たち捜査員は被害者の身辺調査をはじめた。
#3に続く。

にほんブログ村
ぽちっとお願いします。
スポンサーサイト
Category: ミステリー
Published on: Sun, 07 2018 10:46