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ずっと、ずーっと

連続ミステリー 児童公園殺人事件 #9  







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世田谷区の児童公園で起きた殺人事件は大詰めを迎えていた。

加害者とみられる末吉の車がNシステムにヒットし、確実に犯行時間に現場の近くにいたことが判明された。

「運転手の顔が分からんのかー」

監察官は渋い表情だった。

「動機は小山田君の言うとおりだとして、物証がNヒットだけじゃあなあ。引っ張っても吐くかなあ」

「監察官、自分に任せてもらえないでしょうか」

小山田刑事は、決意を込めた声で言った。

「自信はあるのか」

「はったりは言えません、ですがある程度の自信はあります」

「そこまで君が言うにはそれなりのものがあるのだろう、やってみるか」

監察官は小山田のこれまでの実績からいって刑事としての勘の鋭さ、犯人を自白に追い込むテクニックは承知していた。

「よし、任意で引っ張ろう」


他の刑事たちは末吉の監視、尾行を続けていた。

任意での事情聴取という捜査本部の意向はすぐに現場の刑事たちに伝えられた。

末吉は午前8時に会社に出社していた。

小山田たちはその会社に向かった。


風の強い日だった。

日差しが夏に比べると随分優しくなっていた。

秋を感じさせる朝だ。

小山田たちは末吉の会社の前に降り立った。

誰もしゃべらなかった。

無言のまま監視していた刑事たちと合流し、エレベーターで会社のある5階に向かった。



「署までご同行願います」

小山田は低い、抑揚の抑えられた声で末吉に同行を求めた。

「分かりました」

末吉は表情を変えなかった。

社員たちが唖然とするなか、末吉はエレベーターに向かった。

所轄に到着し、取調室に末吉を入室させた。


末吉の顔は蒼白だった。

「あなたの車は犯行現場の50メートルのところでカメラに捕らえられていました。これを説明願います」

「分かりません」

末吉は表情を変えない。

「分からないではすみませんよ。殺人事件なので、いい加減な話は通用しない」

「身に覚えがありません」

「だからそれは通用しないと言ってるだろ」

「私には身に覚えがないと言っているのです」

取調べは本庁の捜査一課の専門家が最初に担当していた。

小山田たちはとなりの部屋でその様子をモニターしていた。

「何度でも聞きますよ。どうして車が現場近くにいたのですか」

「分かりません」

「あなたにはアリバイがない。どうしようもない事実ですよ、正直に言いなさい」

「・・・・・」


モニターを見ていた小山田が腰を上げた。

「監理官、私に取り調べをさせてください」

小山田とともにモニターを見ていた監理官は小山田の申し出を了解した。

「末吉さん。お父さんに会いたくないのですか」

末吉の表情は一瞬に変わった。

思いもかけない言葉をかけられて明らかに動揺していた。

「私はねー、お父さんに会いましたよ。あなたのことを自慢の息子だと言っていました。そして、死ぬ前にもう一度会いたいと言ってました」

末吉は悲しい目で小山田を見た。

「私だって会いたいです。でも会えないんです」

末吉の声は弱々しかった。

「お父さんはあなたが東京に行ってからずっと心配していた。だからあなたが仕事で成功したときは本当にうれしかったと言われました。自分たち親のせいであなたにどんなに辛い思いをさせてきたと。あなたが暴力的になり、警察の世話になったことも全部自分たちのせいである。だからあなたを責める気持ちはなかったったと。それにあなたの更正を熱心に後押ししてくれた真壁さんのことも本当に感謝していると。だから、真壁さんがあなたに会ってがんでもうすぐ死ぬ自分に会うように薦めてみると言われたときはすごくうれしかったと」


末吉の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

唇が震えていた。

「刑事さん、あなたはいじめを受けたことがありますか。それも自分のことじゃない。親のことだ。お前の父親は朝鮮だとか、母親は部落だとか。私は何も悪いことはしていない。親も選んで生まれたわけじゃない。でもみんなから差別された。その気持ち分かりますか」

小山田も胸が詰まった。

だが、繰り返しそんな差別のなか、必死になって息子を育てたこと。母親が早く亡くなり、男手ひとつで育てたこと、などを切々と説いた。

末吉は落ちた。

犯行のすべてを自供した。

被害者真壁から会社に何日も続けて電話が掛かり、渋々会ったこと、車で話しをしているとき外の空気を吸いたくなって児童公園の前に車を止めて、そこで犯行に及んだことをだ。

「真壁さんに会った日はナイフを持っていきました。どうしても真壁さんが納得しないときはナイフを使おうと思っていました。そこまで気持ちが追い込まれていたんです。私が父親に会うことで、そのことがもしマスコミにバレたら、また幼い頃に逆戻りするのではないかと、それだけを思い込んでいました。今になって考えると、マスコミになんか知れることは無いでしょう。たった一回会うだけなのですから。でも、そのときは父親に会うということが、以前の生活に戻るような気がして本当に恐かったんです。真壁さんには本当に感謝しているのに、なぜあんなことをしたのか、自分でも分かりません」


捜査本部はあっけない幕切れに騒然となった。

確かな物証がないまま犯人に自供させるなどということが信じられなかった。

小山田刑事の株は頂点に達していた。

だが、小山田の心はどうしようもない怒りに溢れていた。

どうして人間は差別というものから離れられないのか。

同じ人間を差別する。どうして社会からいわれの無い差別が存在するのか。

もし社会から差別が無くなっていれば、今回の事件は起こらなかった。

そう考えると、怒りの矛先をどこに持っていっていいのか分からないジレンマに陥っていた。

翌日、末吉の部屋から凶器が見つかった。これで決定的な物証も揃って、公判も成立する。

相棒の窪坂が小山田に聞いた。

「末吉は父親に会いたく無かったのでしょうか」

小山田は力を込めた声で返した。

「会いたいに決まっているだろ」




終わり。





追記


この物語は、松本清張先生の「砂の器」の骨子を真似して書いたものです。言わば二次小説ですね。巨匠の真似をしたらどんな物語が書けるかという練習をしてみました。






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