ずっと、ずーっと

中学校の教師長原が殺された事件の捜査に当たっている小山田刑事たちは、長原が付き合っていたという風俗嬢をしている芳野眞子の姉、芳野麗子に会いに住んでいるアパートを訪ねた。
ドアを開けたのは、同居している倉野ゆうりという女だった。
年齢は20歳だという。
芳野麗子は渋谷に買い物に行ったということで不在だった。
「実はある殺人事件の捜査を行なっているのですが、その件で芳野麗子さんにお話を聞きたいのですよ」
小山田は出来るだけ恐怖心を与えないような柔和な表情と口調を意識した。
「あー、そー、ですかぁ。いつ帰るか分かりません」
「では、あなたにお聞きしますけど、芳野さんに彼氏はいましたか」
「いると思いますよ。でも会ったことないけど」
倉野ゆうりと名乗った女はいかにも面倒くさいような表情を浮かべた。
だが、その目は小山田たちを捉えてはおらず、絶えず動く。
その挙動に小山田のアンテナは動いた。
だが、それはこの女から離れたところで相棒の窪坂に打ち明けなければならない。
「その彼氏はどんな男か知っていることを話してください」
「そーねえ、大学生のようなことを言っていたかな」
「相手が中学校の教師だということはありませんか」
「スマホの写真は見たんだけど、一瞬だったから。でも若いことは分かった」
「その男がこの部屋に来たことはありませんか」
「うちがいるときは来たことないです。うちが出かけたら来たかも知れないけど」
女は目だけでなく、体全体に落ち着きがなかった。
声は弱く聞き取れない言葉もある。
「すくなくても彼氏は年の離れた男ではないということですね」
「はい」
「もうひとつ、誰かに付きまとわれたりとか、しつこくされているとかの話を聞いたことはありませんか」
女は下を向いて頭を振った。
小山田は何かあると直感した。
「あるんですね」
頭をあげ、長い髪の毛をかき上げて初めて小山田の目をみた。
「ある。そーいえば」
「話してください」
「しつこい客がいるって。本番をさせろとか、連絡先を聞いてきたりとか。後を付けられて、口論になったけど、その後食事に誘われたので仕方なく着いていったとか」
「その男のこと詳しく話しましたか」
「たしか教師だとか言ってた」「分かりました。とりあえず我々は芳野さんが戻られるまで近くで待つことにしますが、あなたは芳野さんに連絡しないでください。殺人事件の捜査なもんで協力してください」
「・・・・、はい」
小山田は張り込み場所に止めた車のなかで麻薬取締課の知り合いの刑事に連絡した。
芳野麗子と同居している女の犯歴についてであった。
その結果、彼女が十六歳のころに覚せい剤で逮捕され更正施設送りになったことが分かった。
現在は麻取りの監視対象にはなっていないことも判明した。
「あの女薬物中毒なことは分かったか」
「挙動不審のことは分かりました。でも、若い女が刑事に話すときはときどきああいう態度になることもあるように感じますが」
「あれは典型的なヤクチュウの反応だよ。あの子は分かりやすいね」
「じゃあすぐに引っ張ればいいじゃないですか」
「まだだよ、馬鹿。まずは情報源だろ。芳野麗子を押さえたときまではな。それに俺たちは麻薬取締り班じゃないんだから、いきなり拘束は出来ないだろ。一応、麻取には教えるけどな」
「ですね」
小山田たちが、芳野麗子のアパートの入り口が見える場所に車を止めてから30分後に別の捜査官が到着した。
同居している女が外出した際に尾行をするためだ。
張り込みを開始して2時間が過ぎた。
同居している女は外出しない。
午後の三時を回って、夏のなごりの暑さがやがて、秋らしい涼しい空気に入れ替わるころ、芳野麗子は帰ってきた。
#9に続く。

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