ずっと、ずーっと

居間の窓に桜の花びらが一輪ついた。
つい何日か前に公園の桜が満開になったばかりなのに。
今年の桜は咲くのも早かったけど、散るのも早い。
私は、急いで外に出た。
満開の桜の木から数十の花びらがゆるい風に舞っていた。
ひとりらひとひら、舞う花びらを目で追っていた。
桜色が春の陽の彩度に合わせて鮮やかだった。
公園の片隅に小さな木がある。その根のあたりに薄茶のキジトラの猫がいた。
「パンチじゃないか」
子猫のとき、母親が死んでしまって充分に乳を飲まなかったパンチ。
うちに貰われてきたときは一週間、誰にも姿を見せなかったほどシャイだったのに、成長するにつれ一番甘えん坊になった。
そんなパンチが死んでもう十年になるのに、木の下にいる猫はパンチに見える。
「会いにきてくれたのか」
いや、そんなはずはない。
近づくと、私に気がついた猫は、さっと姿を消した。
パンチによく似た猫だったのだろう。
でも私の中で「また会いに来てくれよ」とつぶやいた。
会いたい、本当に会いたい。
また私の体に自分の体をこすりかけて甘えてほしい。
私は桜の散る公園のなかの道を歩き続けた。


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