ずっと、ずーっと
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往古警部補は、県警本部の建物の前に来ていた。
思えば、小学校の頃から憧れだった警察官になって、県内の警察署を転々としてこれまで勤めて来た。
正直、本部に登用されることは生涯無いと思っていた。
何とか警部補にはなれたものの、精一杯がここまでという実感しかなかった。
しかし、運命は不思議なものだと思わざる終えない。
自分がまさか、助っ人とはいえ、本部の一員として働けるなどということは夢のような話だと思った。
それがいま、現実として目の前に本部の建物がある。
感動ものだった。
往古は、2階にある「組織暴力対策課」の刑事部屋のなかに入った。
課長の札が立ててある席に向かった。
「派遣されてきました、往古警部補であります」
マル暴の刑事たちは一見すると、本物のヤクザと見えるくらい強面の男ばかりであった。
女性警察官は制服を着た事務職のものしかいない。
彼らに比べると課長は細面の優男といった風情であった。
「君が往古君か、期待してるよ」
上津くん、課長がかなり離れている席に座っている刑事を呼んだ。
その上津刑事という男は、いかにもマル暴の刑事らしく、オールバックの髪がてかてかに光ったいかがわしい感じの男だった。
「往古警部補だ。自動車警ら隊で一番優秀な男だ。君と組んでくれ」
「了解です」
往古は、上津の隣のデスクを割り当てられた。
「出入りが近いから忙しいんだ。そういえば、昨日の逃走車を見つけたのはあんただってな」
「そうです。取り逃がしましたけど」
「車になかからチャカの部品が出てきたのを知ってるよな」
チャカとは拳銃のことだ。
「はい、驚いています。どこの組か分かったんですか」
「ある程度はな。それじゃあ、午後はその組に挨拶にいくか」
「容疑者がいるかも知れないところへですか」
「マル暴なんか容疑者しかいねえよ。みんな悪党だからな」
「分かりました」
やくざと組み合う最前線の刑事たちは警察のなかでも特殊な存在だった。
普通の警察官はごく普通の市民と接することがほとんどだ。犯罪者と接することになることはけっして多くない。
各警察署でも凶悪犯罪者と接するのはごく一部のものだけだ。
自動車警ら隊だって、普段は交通違反者や、せいぜい薬物事犯者くらいで、重大事犯の捜査に当たることはないし、犯人を逮捕する機会は少ない。
それに比べたらマル暴の刑事たちは、犯罪を生業としているものとしか接しない。
常に戦場のなかにいる兵士たちだ。緊張感というか、刹那感というか、空気がまるで違うのを感じたのである。
その日の午後、往古と上津は、全国でも構成員が一番多い組織の本部に乗り込んでいった。
#8に続く。

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