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連続ミステリー 往古警部補の終焉 #8  


















名古屋にある全国組織の暴力団本部に行くことは往古にとって初めての体験だった。

若いとき、警備に所属していたとき、本部へのガサ入れのとき、警備の一員として来たことはあったが、建物のなかに入ったことはない。

本部のあるビルは、繁華街から少し離れた倉庫や工場のある地域の一角にあった。

暴力団対策法によって、学校や病院などの公共の施設のあるところには組関係の建物や事務所を置くことは許されない。

濃い茶色のビルは四階建てだった。入り口は大きな鉄の扉があり、サイドには監視カメラが何台も取り付けられていた。

「緊張するやろ。俺も初めて来たときは内心どきどきモノだったんだぜ」

上津は少し不安になっている往古の心をずばりと言い当てた。

「でもびびったところを相手に見透かされてはダメやで。ヤクザは虚栄心だけで成り立っている人間どもや。弱みを見せるととことん漬け込んで来るからな」

「分かりました」

インターホンを押して中に入った。

ドアの前には180センチ以上はあるだろう大男数人が鋭い目つきで往古たちを睨んでいた。

「お疲れさんです」

表情ひとつ崩さず男たちは上津に挨拶した。

「おぉー」

軽く手を上げて建物のなかに入る。

往古たちの背後にはぴたりと組員が着く。

ロビーのような広間を抜けて、最初の部屋に入る。

そこには大きなデスクとソファがある事務所だった。

神棚がやけに目立つ。

その反対側の壁には日本の国旗と組の看板が掛けられてあった。

「上津さん、ひさしぶりやな」

50歳前後のヒゲをはやした男が親しげに上津に声を掛けた。

「あんたも愛知の水は久しぶりやろ」

「そうやな、一年ぶりかな。向こうの事務所にかかりつけになっとったさかい」

その男は組の若頭の大山だった。

表情は柔らかかったが、目が冷徹そのものだった。

人を何人も殺したことがある目だった。

「新入りさんかい。それにしては年増やな」

「いや、彼は応援でね。自動車警ら隊でならした男や。うちの課長は引き抜きたいと思っているらしい」

「それはええがな。お気張りや」

往古はぺこりと頭を下げた。

何でこんな犯罪者集団に頭を下げなければならないんだと自問したが、そうさせるオーラのようなものがこの若頭にはあった。

「ところで今日はどんな用件や」

「この前、この男が不審車両を追いかけて取り逃がしたんた。その車内にチャカの部品があってな。おたくらが良く使うチャカの種類だったから一応聞いておこうと思ってな」

それまで立ったままで話していた往古たちは促されてソファーに座った。組員がお茶を運んできた。

大山は上津の顔を睨みつけながら、

「知らんな。どこぞの半端もんやろ」

「逃げ方といい、愛知に詳しい奴らやと思うんや。そしたらあんたらしかおらんやろ」

「そりゃ確かにうちは関西のYと向き合うとる。いつ刺客が送り込まれてきてもおかしくない、今はそれだけしか言えんな」

「逆にあんたらの方から刺客を送り込むこともおおいにあるちゅうことやろ」

「それはどうか分からん」

「うちらのシマでことを起こさんで欲しいんや。俺らの面子の問題もあるしな」

「極道がサツの顔色伺ってたら極道の世界で笑い者や」

「それやったら、あんたらは関西のYとうちらと二方面の戦争になるぞ」

「Yは今のうちに潰しとけというのが組長の意向や。まあ主戦場は関西になるやろうけどな」

「そうなって欲しいわ。うちで不測の事態が起きたら暴力団排斥の世論が巻き起こってあんたらのしのぎにも影響するさかいな」

「肝に銘じておきます」

大山は初めて殊勝な態度を往古たちに見せた。



上津は満足そうな顔をして組本部を後にした。

「どうやった」

「腹の探りあいですか」

「やくざが本音で俺らと話ことは絶対に無い。そこをどう読み解くのかというところが俺たちの腕の見せ所だということだ」

往古は今までの職場の雰囲気とあまりにも違いすぎることに不安を覚えた。

夢にまで見た本部勤務。だが、おいそれとは夢の実現ということにはなりそうもないことは往古には分かり始めていた。



#9に続く。










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