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連続ミステリー 往古警部補の終焉 #15  


















愛知県南部にある町の組の幹部である白地に会って数日後だった。

往古の組織犯罪対策課への応援も終了する時期だった。

課長からは、いったん自動車警ら隊に戻って、正式に組対に移動する辞令を出すような話があった。

一ヶ月に満たない期間であったが、数年いたような気がしていた。



往古の携帯に白地からの連絡が来た。

数日後に地元の飲み屋に来てくれれば面白い話を聞かせようということだった。

マル暴としての自分のキャリアがひとつ上がったような気がしていた。

愛知県南部の組は、名古屋に本部のある全国組織が一目置く存在だ。

その組の幹部と懇意になれば、自分の情報源になり、これからの仕事がやりやすくなるし、マル暴の経験のある刑事たちにも対等な態度がとれるのではないかと考えた。

それともうひとつ、北陸の組員が殺された事件の真相を掴めば、それだけでもマル暴内での自分の立場に大きなアドバンテージが付く。

けっして、本部の事件解決を覆そうなどという青臭い正義感ではないと自分に言い聞かせた。

定刻に県警本部を出た往古は、電車を使って愛知県南部の町に着いた。

午後八時を回っていた。帰りの電車が無くなれば、タクシーで帰るつもりだし、場合によってはマンガ喫茶に泊まってもいいと思って、白地のいる飲み屋に向かった。

その飲み屋が入るビルは盛り場の外れにあった。古いビルで、飲み屋や朝鮮料理の店が入る盛り場によくある雑居ビルだ。

スナック「かな」という表示のあるドアを開けて中に入った。

カウンターとソファのあるボックス席がふたつほどある小さなスナックだった。

入り口のすぐそばにあるカウンター席には、往古が白地の家を訪ねたときに最初に応対した男が座っていた。冷たい目で往古を一瞥して頭を下げた。

白地はボックス席でママらしき中年の女と同じソファに座って飲んでいた。

「ここにどうぞ」白地は真向かいの席に座れと合図した。

顔には笑みが浮かんでいた。

「失礼します」

「車ですか」

「電車で来ました」

「それやったら飲めますな」

「はい、いただきます」

ママらしき女が水割りを作って往古の前に置いた。

「ここのママは私の兄貴分の奥さんやった人です。兄貴は殺されよったんですけどな」

白地は薄気味悪い笑みを浮かべていた。

そのとき、往古はやくざの正体を見た気がした。

やくざは所詮、人間の屑なんだと。

「まあ、そんなことはともかく、この前の殺しの仕掛けが分かったんですよ」

「ぜひ聞かせてください」

「これはあんたの胸だけに収めてくださいますよな」

「そうします。今更事件を覆そうとは思っていませんから」

「それはけっこう。名古屋の組と付き合ううえであんたに情報があるとすれば、あいつらもあんたに一目置くことになりますからな」




往古はこの男がやくざの世界だけではなく、警察の本質も抑えている懐の深い人物だということを思い知らされたような気がしていた。



#15に続く。











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