ずっと、ずーっと

宮城静江のピアノの先生を殺害し、逮捕されたのは、静江の幼馴染の中学二年生の男子生徒だった。
「彼は逮捕されたあと裁判で処分が出て、養護施設で監禁状態にされて半年後に家に帰されました。家に帰った三日後、自宅の庭の木にロープをかけて自殺したのです」
そのことを語ったとき、静江の瞳の奥に邪悪な光が宿っていることを大塚は感じた。
「どうして死んだのですか」
「罪の重さに耐え切らなかったのでしょう」
その言葉には憐れみも、動揺も感じられなかった。
大塚はその態度に違和感を感じた。
この老女は何をしてこのように他人事のように話せるのだろうか。
どうしてもそこを静江に聞きたかったのだ。
「どうして彼はピアノの先生を殺害したのですか」
「分かりません」
「それはおかしいでしょう。彼はピアノを習っていたのですか」
「いえ、そうではありません」
「では、あなたは何が動機か分かりますか」
「ですから、分からないと申し上げているのです」
「だからそれはおかしいと思うのですよ。警察からは何か報告のようなことはなかったのですか」
「父親が私のことを心配しておりました。何しろ、ピアノの先生が殺されて、その犯人が私の友人だったことで、私の心の動揺が計り知れないと思っていたのでしょう。だから、警察にも行って、事件の真相を正したそうです。ですが、少年事件は情報を開示できないと教えてくれなかったそうです」
「ですが、あなたのお父様は県議会議員で有力者だったのでしょ、権力を使って真相を聞きだすことは難しくないと思いますけど」
私が執拗に食い下がるので、静江は少し動揺したようだった。
明らかに顔の表情が固くなった。
「あー、それは・・・」
「どうか聞かせてもらえないでしょうか。あなたの現在の心の暗闇がこの事件に少しでも関係していないか探るためですし」
しばらく手に持った紅茶カップを見つめていたが、思い口をゆっくりと開いていた。
「あまりお話したくはないことなのですが」
「失礼を承知ですが、あなたのためでもでもあります」
「分かりました、お話しましょう」
静江は穏やかな表情に変わっていた。
頬が少し赤んでいるようだった。
「ピアノの先生は私に恋をしていたのです」
意外な告白だった。
教え子に恋することはありえる話だ。
「私が小学校高学年になると、先生の態度がだんだんいやらしくなっていったのです。ここでペダルを強く踏む、とか言って私の太ももを触ったり、うまく弾けたりすると頬を撫でたりやたらスキンシップするというか、触ってきたのです」
「今でいうセクシャルハラスメントですね」
「中学生になると、私に手紙を渡すようになったのです」
「どんなことが書かれていたのですか」
「ピアノのことが多かったのですが、そのなかに君の弾いてる姿は美しいとか、君の存在が私に生きる希望を与えているとか、とても先生と生徒の関係を超えた内容もたびたびありました」
「そのことと、あなたの同級生が先生を殺したことへのつながりがあるのでしょうか」
静江は次の言葉を出すことに苦しそうだった。
もうこれ以上聞くのは酷なのではないのかと大塚は少し弱気になった。
「実は先生を殺した幼馴染は、私と親密な関係でした」
「男女のなかということですか」
「いえ、そこまで踏み込んではいませんでしたけど、私は彼に先生のことを詳しく話していたのです」
大塚は今まで暗かった部屋に電気が灯ったような気がした。
#6に続く。

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